未登記建物の賃貸はトラブルに注意!リスクや契約関連について

未登記建物・相続登記

不動産を未登記のままにしておくということは「考えられないこと」と思われる方が多いと思いますが、実は未登記建物は少なくありません。未登記建物は登記簿にない建物です。未登記建物の賃貸には、貸す側にも借りる側にもリスクが伴います。どのようなリスクが想定されるか見ていくことにしましょう。


未登記建物とは

不動産の登記とは、土地や建物の所在・面積など、また、その不動産について権利を持っている人の住所・氏名などを公の帳簿「登記簿」に記載することを言います。ここで大切なことは、登記簿に記載された情報は「公示」されるということです。

つまり、義務である建物表題登記することで、その不動産がどこにあって、どれくらいの広さがあり、誰が申請したかといった情報が公開され、誰でも見ることができるようになります。

そして、所有権保存登記することでその不動産の所有者は、他の人(第三者)に対して「この不動産の所有者は私です」と主張することができるようになります。自分の財産を守るために不動産登記はとても大切です。

未登記建物とは、この大切な登記がされていない建物です。その建物の所在地や建物の種類・形状・面積といった物理的な情報、そして、その建物を持っているのは誰かという所有権に関する情報が、公の帳簿「登記簿」に記載されていないのです。

現在では、マイホームの新築などについては銀行など金融機関でローンを組むのが一般的です。その際、銀行など金融機関は、新築の建物に抵当権を設定します。ローンの返済が滞った場合に備えるためで、この場合も建物の表題登記、所有権保存登記が必要になります。

こうしたことから、現在では新築の建物が未登記のままになることは少ないのですが、昔はローンを利用せず自己資金だけで家を新築するケースも多く、古い建物には未登記のままになっているものが多いのが現状です

未登記建物を賃貸借時に起こるトラブル

では、未登記建物を貸す、また、借りる場合にどのようなリスクがあるかを見てみましょう。

未登記建物を貸す場合のリスク

まず、未登記の建物を貸す場合についてです。

例えば、持ち家を賃貸に出す場合、一般的には不動産会社に仲介を依頼することになるでしょう。その際、不動産会社は、その家の所有者を確認するために登記簿を取得して家の持ち主を特定します。しかし、未登記建物はそもそも登記されていないわけですから登記簿を取得することができません。

未登記建物を貸すこと自体は法律違反というわけではありませんが、登記簿が取れない家を仲介するのは、不動産会社にとって困ったことになります。不動産会社としては、その家を借りたい人に対し、その家の状態や所有者等について正しい情報を知らせなければなりません。しかし、未登記ではそれができないからです

建物の登記については、まず、その建物の所在、種類(居宅、店舗、事務所、共同住宅等)、構造(木造、軽量鉄骨造、鉄筋コンクリート造等)、床面積など、建物の物理的な状態を登記します。これを「建物表題登記」と言います。そして、表題登記をした後、建物の所有が誰かを確定させる「所有権保存登記」を行います。

建物が未登記である場合、この所有権保存登記が行われていないため、所有権者を確定することができません。万一の場合、その家の所有権者は第三者ということも考えられるわけです。こうした状態では、不動産会社も安心して仲介することができません。

ちなみに建物の登記については、先に表題登記をしてから所有権保存登記を行います。まず表題登記によって建物の物理的な状況を確定し、その後、所有権についての登記を行います。

表題登記がされていない建物について所有権保存登記をしようとするのは、「公的に確定していないものについて、公的に所有権の確定を求める」ということですから、これは論理的に無理な話です。未登記建物を賃貸に出そうとして不動産会社に依頼した場合、「まず、表題登記をして下さい」と言われることになるでしょう。

未登記建物を借りる場合のリスク

未登記建物を借りる場合はどうでしょう。

貸し出すのと同様に、借りること自体に問題はありませんが、リスクを考える必要があります。すでに「未登記建物は所有権者を確定することができない」ということをお話ししましたが、これは建物を借りる上で大きな不安要素になります。

いつくかケースを見てみましょう。
あなたが、Aさんの家を借りることにしたとします。ただ、その家は借地上にあり、未登記建物であったとしましょう。Aさんは借地人ということになります。このケースで、Aさんは、地主の承諾がなくても、あなたに家を賃すことができますし、あなたもAさんから家を借りることができます。

では、あなたに貸した家をAさんが第三者に売却することにしたらどうでしょう。
地主の承諾を得た場合、Aさんは家を第三者に売却することができます。しかし、問題はあなたとAさんとの間で結ばれた賃貸借契約です。新しい所有者から家賃の値上げや立ち退きなどを要求されたなら、それに従わなければならないのでしょうか。この場合、Aさんと結んだ賃貸借契約は継承され、解除されることはありません。

しかし、次のようなケースも考えられます。例えば、地主が自身のビジネスのために金融機関から融資を受け、土地に対し担保権や根抵当権を設定したとします。ところが、その後ビジネスが破綻し、債務不履行によって債権者(金融機関)が裁判所で競売手続きを行ったとしましょう。そして、第三者が落札したとします。

このとき、元の地主とAさんが交わしていた契約は非常に不安定になります。例えば、新しい地主(第三者)がAさんに立ち退きを要求したとします。この場合、建物が登記されていれば、Aさんは新しい地主(第三者)の要求に対し「自分は借地人である」と対抗することができます。借地借家法で借地人の立場が保護されるからです

しかし、未登記であればAさんは新しい地主(第三者)の要求に対抗することができません。すると、Aさんから家を借りているあなたも困難な立場に立たされることになります。Aさんと一緒に「何の権利関係も持たない占有者」として、訴訟を起こされる可能性もあるのです。

なお、ビジネスを始めるために建物を借りるとき、その建物が未登記建物の場合、建物を借りても営業することができないケースがあります。例えば、リサイクルショップなど中古品の買い取り販売は古物商の許可が必要です。その許可申請は、実際に販売を行う営業所の所在地を管轄する警察署で行います。しかし、未登記建物の場合、原則として営業所として認められず、開業することはできません

未登記建物の賃貸借契約の注意点

未登記建物を売却したり、あるいは、賃貸に出す、また、借りるということ自体はできますが、ここまでお話ししたように、未登記建物は貸す際にも借りる際にも大きなリスクが伴います。

アパートやマンションの一室を借りる際に「賃貸借契約」を結んだことがある方は多いでしょう。契約書に書かれている主な項目は、物件の名称・所在地、物件の構造、間取り、住戸部分の設備、付属施設、契約期間です(国土交通省が配布している、「賃貸住宅標準契約書(家賃債務保証業者型)」のひな形より)。

注意したいのは、ここには物件の名称・所在地などは記載されていますが、その建物が登記されているか未登記建物かについては記載されていないことです

そこで大切になるのが「重要事項説明書」です。
重要事項説明書とは、借主または買主に対して、物件や条件に関する重要事項が記載された書面です。不動産業界では、借主または買主が正しい情報を把握した上で契約できるよう、宅地建物取引士が重要事項説明書の内容を口頭で説明をすることが義務づけられています。

この重要事項説明において、もし建物が未登記建物であった場合は、そのことを借主または買主に伝えなければなりません。重要事項説明書にもその旨が記載されているはずです。建物を借りる際は、重要事項説明書をよく読むこと、また、その説明をよく聞くことが大切です。

不動産登記法には、新築した建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1カ月以内に、表題登記を申請しなければならないと定めています。そして、「その申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する(不動産登記法164条)」とされています。未登記建物は、不動産登記法の規定に反しているのです

はじめに「未登記建物がまだまだ多いのが現状である」と話しましたが、建物が未登記であることに気づいたなら、なるべく早く表題登記を行うことをおすすめします。表題登記は土地家屋調査士、また、所有権保存登記は司法書士に依頼するのが一般的と思われていますが、実は、表題登記、所有権保存登記ともに専門家に依頼せず自分ですることもできます。

ただ、実際には「何をどうすればいいか分からない」となることが多いと思います。しかし、その「何をどうするか」を丁寧にサポートしてくれるサービスもあります。インターネットで「住Myの建物登記自己申請」で検索してみて下さい。サポート費はかかりますが、専門家に依頼した場合に比べ登記費用を抑えることができます。

まとめ

未登記建物は公の登記簿にない建物です。建物の物理的な状況はもとより、所有権が公に確定していないわけですから、その建物を貸すことについても借りることについてもリスクが伴います

家が未登記であるかどうかを調べるのは難しくはありません。役所から送られる「固定資産税納税通知書」に「未登記」と書かれている場合や、「家屋番号」が空欄の場合は未登記である可能性が高いでしょう。また、法務局ではお金を払えば誰でも登記簿謄本や、登記事項証明書の取得することができます。もし取得できなければ、その建物は未登記です。

登記簿の確認は、法務省が提供する「登記・供託オンライン申請システム」(利用時間は平日午前8時30分から午後9時まで)で行うこともできます。専用アプリケーションをダウンロードして申請、取得費用の決済も必要ですが、所要時間は10分程です。万一、家が未登記であることが判明したなら、なるべく早く登記することをおすすめします。

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