父や母が亡くなったときに発生する問題の1つに「相続登記」があります。
相続登記とは、土地や家、マンションなどの不動産を保有する所有者(被相続人)が亡くなったときに、配偶者や子など相続人へ登記の名義を変更する手続きを指します。
あるメディアが行った相続登記の経験がある人に向けてのアンケートでは、「相続登記を自分で行った」人の割合は23%。また、「全て司法書士に依頼した」が48%、「一部を司法書士に依頼した」が25%でした。
手続きを全て自分で行っているのは4〜5人に1人ということになります。
本記事では、自分で相続登記をするメリットやデメリット、自分で相続登記をするときの手続きや必要書類、体験談などをお伝えします。
また相続登記には、遺産の分け方をまとめた「遺産分割協議書」に全ての相続人が捺印するという過程が必要なケースもあります。本記事では遺産分割協議後の相続登記を中心に解説します。
相続登記を自分で行うことのメリットとデメリットとは?
相続登記を自分で行ったときのメリットとデメリットを解説します。
メリット
自分で相続登記をするメリットは以下のものがあります。
• 専門家への支払いをなくすことができる
• 登記や法律などの専門的知識が身につく
• 友人や知人にアドバイスできるようになる
相続登記を自分でする最大のメリットは、「専門家への支払いをなくすことができる」ことです。
相続登記は、登記や法律の知識が必要になるため、専門家である司法書士へ依頼する相続人は多いようです。
この場合、登記申請書のみを作成依頼するのか、戸籍謄本等の取得や遺産分割協議書も作成依頼するのか、地域や依頼する司法書士などによって金額は異なりますが、5万円から15万円の出費になります。
しかし自分で登記を行う場合はこの費用が不要となり、必要となるのは登録免許税や戸籍謄本等、住民票の発行手数料やそれにかかる経費のみです。
出費を抑えたい場合は、自分で相続登記を進めましょう。
デメリット
自分で相続登記するデメリットには以下のものがあります。
• 時間と労力がかかる
• 登記漏れするリスクがある
• 精神的な負担になる
相続登記を自分でするデメリットの一つは、「時間と労力がかかる」ことです。
相続登記は、必要書類が多く役所や法務局へ何度も足を運んだり、地方の役場へ何度も郵送や電話をしなければいけなかったり、時間と労力を必要とするためです。
特に相続人が多い場合、全ての相続人の戸籍謄本等の収集をしなくてはいけないため、多くの時間を割くことになります。
また、被相続人が生まれてから亡くなるまでの経緯が分かる戸籍の記録が必要なため、戸籍謄本が1つだけではなく、「戸籍関係書類」として戸籍謄本以外に戸籍抄本、除籍謄本、除籍抄本等の取得が必要なケースもあります。
それに加え「誰が相続人になるのか?」といった法的な権利知識も必要になり、不動産を含めた全ての遺産を把握しなくてはなりません。
そして、都道府県をまたいだ戸籍関係書類を集める場合、複数回、平日に仕事を休む必要も考えておくべきです。
これら全てを的確に把握するためには時間と労力が必要なため、司法書士に依頼した方が良いケースもあることを頭に入れておきましょう。
相続登記を自分でするもうひとつのデメリットに、「登記漏れをしてしまう」可能性が挙げられます。登記漏れとは、相続登記すべきものを見逃して手続きを進めてしまうことです。
例えば、亡くなった方が所有する不動産を「土地と建物」と判断する相続人は多いですが、実際には土地(私有地)に接続する「道路」も所有している場合があります。
土地1筆と建物1軒を登記する場合、それぞれに対して登記簿があります。相続登記を行う際には前述したとおり、戸籍関係書類や遺産分割協議書など様々な書類を用意する必要がありますが土地と建物を同時に登記申請することは可能で、同時にするため書類準備は一式で済みます。
しかしながら、土地と建物を登記した後に道路の所有が発覚した場合、新たな相続登記申請として「再度」書類一式を準備する必要があり、手間と時間が二度かかることになります。
相続登記を自分で行う際に必要な手続きと注意点
これまでの相続登記には法的な強制力はありませんでしたが、2024年4月1日より義務化されます。
これにより、相続によって不動産を取得した相続人はその所有権を取得したことを「知った日」から3年以内に相続登記をしなければいけません。
違反した場合は、「10万円以下の過料」のペナルティが発生します。
「過料」とは、「罰金」とは違い前科はつかないものの、それなりの額がペナルティとして発生してしまうため気をつけましょう。
相続登記の大まかな流れは、
• 相続する不動産を確認する
• 相続する割合を決める(相続人が複数人いる場合)
• 相続登記の必要書類を収集する
• 管轄法務局へ申請する
といったものです。
初めから解説していきます。
1.相続する不動産を確認する
まずは、亡くなった方の不動産の状態や権利を確認します。
確認するのは土地や家屋の所有者、住所、それぞれの面積や構造です。
被相続人宛の固定資産税納税通知書には「固定資産税課税明細書」が添付されてきますので、この明細書をチェックして、不動産の状態を把握しましょう。
2.相続する割合を決める(相続人が複数人いる場合)
相続人が複数人いる場合、誰が、どの不動産を、どのような権利割合で引き継ぐか等を決めます。
相続人全員で分割して引き継ぐ場合は、一般的には代表者が相続登記の準備を進めることになります。
相続人全員で分割せずに「誰か」が引き継ぐ場合は、話し合いの内容で作成した遺産分割協議書に相続人全員が住所、署名、捺印をおこない、添付書類として印鑑証明書を準備する必要があります。
3.相続登記の必要書類を収集する
相続登記では、被相続人や相続人の戸籍関係書類など複数の書類が必要です。
恐らく、多くの人にとって一番大変な作業がこの書類収集です。(詳しくは下に記載しています)
4.管轄法務局へ申請する
必要書類を全て集めたら、不動産の所在地を管轄する法務局がどこなのかを調べましょう。
相続登記の申請方法は「法務局窓口申請」「郵送申請」「電子申請」の3種類から選択できます。
初めて自分で行う場合は、申請前に法務局で書類の確認をしてもらうと不備不足がその場でわかり、申請の際には問題なくスムーズに進むのでおすすめです。
法務局窓口申請の手続き流れは以下のようになります。
• 登録免許税額分の収入印紙または国へ税務署等より納付時の領収書を申請書に添付
• 法務局窓口へ必要書類を提出し、その場で受付番号と登記完了予定日がかかれた書類を受取る
• 登記完了予定日に法務局へいき、登記完了証と登記識別情報通知書を受取る
申請後、不備や法務局に混雑がなければ1週間ほどで登記が完了します。
登記が完了すると登記完了証(登記が完了したことだけを示す書類)と登記識別情報通知(権利証)が受け取れますので、大切に保管しておきましょう。
相続登記を自分で行う際の注意点
• 被相続人が生まれてから亡くなるまでの経緯が分かる戸籍関係書類が必要
• 結婚や離婚により本籍地が変わっている場合も、最新の戸籍から遡っての取得が必要
• 被相続人の登記上の住所と戸籍関係書類に記載された本籍と異なる場合は証明書類が必要
相続登記を自分で行う際は、専門知識が必要となる場面が多々あるので、事前に法務局へ相談することをおすすめします。
無料で対応してもらえるので、最寄りの法務局に問い合わせてみましょう。
相続登記を自分で行う場合に必要な書類と取得方法
相続登記を自分で行うときに必要な書類は以下の通りです。
• 被相続人の戸籍関係書類
• 被相続人の住所証明書類
• 相続人全員の戸籍関係書類
• 相続人(不動産を相続した人)の住所証明書類
• 相続登記する不動産の評価証明
• 相続登記する不動産の登記済証(権利書)
被相続人の戸籍関係書類
まずは、被相続人の戸籍関係書類を集める必要があります。
「被相続人」とは財産を残して亡くなった人のことで、一般的に相続人の父親や母親であることが多いです。
被相続人の戸籍関係書類とは、生まれてから亡くなるまでの経緯がわかる戸籍謄抄本、除籍謄抄本など、戸籍の記録のことですべて集めなくてはなりません。
人によって異なりますが、転校、転居、転勤などで本籍地が変わり1つの市区町村役所で全ての戸籍関係書類が揃わないケースもあります。
その場合は、最新の戸籍謄本から遡り他の市区町村役所にて戸籍関係書類を取得しなければなりません。
本籍が複数ある場合も、それぞれの市区町村役所で入手しましょう。
被相続人の住所証明書類
被相続人の本籍地記載住民票の除票または戸籍の附票を集める必要があります。
これは登記上の所有者の住所と、被相続人の戸籍謄抄本と住所証明書類等を照らし合わせ同一人物であるかを確認するためのものです。
「住民票の除票」とは、他の市区町村に転出や死亡などにより世帯から住民登録が消された住民票の「記録」のことです。市区町村役所の保存期間は5年間です。
登記されている所有者は、住所と氏名で判断されるため、登記上の住所と現在の住民票住所が異なる場合はその経緯を証明する公的書類が必要になります。
また、「戸籍の附票」は現在までの全ての住所が記載されている書類で、本籍のある役所、郵送、マイナンバーカードを取得されている方は交付サービス提供のコンビニで取得できます。
住民票の除票と戸籍の附票のどちらも入手できない場合は、法務局に問い合わせましょう。
相続人全員の戸籍関係書類
相続人(被相続人の配偶者や子供など)全員の最新の戸籍謄抄本を管轄役所で集める必要があります。
これは、被相続人が亡くなった時点で相続人が生存していることを確認するための書類です。
そのため、被相続人が亡くなった日以後に発行された戸籍関係書類でなくてはいけません。
相続人(不動産を相続する人)の住所証明書類
不動産の所有者となる相続人の住民票を集める必要があります。
こちらも本籍地記載のある住民票でないと相続登記には使えませんので気をつけましょう。
相続する不動産の評価証明
相続登記申請の際は、法務局に登録免許税を納めることが義務付けされており、登録免許税額は不動産の評価額より算定されるため、評価額が記載されている固定資産評価証明書・評価通知書または固定資産税課税明細書を準備する必要があります。
都内であれば都税事務所、それ以外であれば市区町村役所の税務課で入手ができます。
相続登記を専門家に依頼する場合と自分で行う場合の比較
ここでは、相続登記を専門家である司法書士に依頼した場合と、自分で行った場合を比較し、それぞれのメリットについて解説します。
専門家への依頼した場合
相続登記を司法書士へ依頼する場合の最大のデメリットは「費用がかかること」です。
司法書士に依頼する場合は以下の費用がかかります。
• 司法書士への報酬:5万円〜15万円
• 必要書類の取得経費:5,000円〜3万円
• 不動産の調査費用:1,000〜3,000円
司法書士への報酬と経費は、不動産の物件数、相続人の数などによって変わってきます。
しかしメリットは、それら難しい用件を専門家に任せることで、役所や法務局へ行く時間と労力の削減、戸籍謄抄本等の収集による苦労をなくせる、登記漏れを防げることだといえるでしょう。
自分で手続きを行う場合
自分で手続きを行う場合のメリットは 、前述しているように出費が5万円〜15万円少なくなります。
自分で相続登記すると司法書士とのやり取りが不要となることや、相続や登記の知識が身につき、不動産の状態も詳しく把握できます。
デメリットは、自分で役所や法務局へ行かなくてはいけないため、平日に休みを何回も取らなくてはいけません。
また、戸籍を読み解いたり税金の計算もしたりと労力や手間もかかります。
しかしながら、次の3つに該当する方は、自分で手続きを検討しましょう。
- 相続人が配偶者や子供のみである場合
- 平日昼間に役所や法務局に行く時間を割ける人
- 法律知識や戸籍の収集・読み取りなどに根気良く対応できる人
時間・労力・ストレスなどに向き合えるかどうかは重要なポイントです。
自分で相続登記を行った人の体験談
自分で相続登記を行った方の成功談と失敗談を紹介します。
【成功談】
• 自分で手続きしたら、相続や登記の仕組みについて網羅的に知識がついた。
• 法務局で審査してもらうときはドキドキしたけど相続登記を経験して自信になった。
• 何度も法務局へ足を運びましたが、自分で登記できて達成感がありました。
• 自分でやってみて、「故人が生きていた」という証を感じ、満足している。
• 全て終わってほっとした。自分自身が他界したあとは関係者に迷惑をかけたくない。
• 苦労したけど、相続登記の費用が安くなったので意味はあった。
成功談としては、「手続きは大変だったけど、節約もできてやって良かった」という意見が共通して多くありました。
また、「知識が身について他の人に教えることができる」という意見もありました。
【失敗談】
• 相談に行くたびにやらなくてはいけないことが増えて心が折れた。
• 確認不足で管轄の役所や法務局だけでなく、地方の役場への度重なる郵送に疲労した。
• 想像以上に苦労しました。1人の力では限界があります。
• 相続人が多く、戸籍の調査だけで5万円以上かかってしまった。
• 申請書の書き方が分からず、何度も法務局にいくことになってしまいました。
失敗談としては、相続人が想定以上に多かったケースや、やり方が分からずに疲労したなどの話が目立ちました。
その他、相続人に不仲な人や疎遠な人がいて大変だった例や、相続登記を放置していて固定資産税の支払いが遅れることになったことなどがありました。
相続登記は、相続の条件によって時間も労力も大きく異なります。
それぞれの条件に合わせて、判断していきましょう。
まとめ
今回は、相続登記を自分で行ったときの必要書類や手続きについてお伝えしました。
相続登記は自分でする場合、必要書類や手続きで専門知識が必要になるため、時間と労力を大きく割かなくてはいけません。
しかし、専門家に依頼しない分、費用が大きく削減できたり、登記や法律の知識が身についたりと、今度は人に教えることもできます。
全体像と正しい進め方を把握して、トラブルのない相続登記をしていきましょう。