建物を新築した場合、その所有者は、法務局に対してどのような建物で誰が所有者であるかを証明するための登記が必要になります。これが建物表題登記です。
また、第三者に対し建物の所有者であることを主張するには、所有権の保存登記が必要であり、住宅ローンを利用するには、抵当権設定登記が必要になります。
では、これらの登記はいつ行うのでしょう。また、登記をしないことで何かしらのリスクは発生するのでしょうか?
今回は、表題登記のタイミングや住宅ローンとの関係性について解説します。
建物表題登記のタイミング
建物表題登記に限らず、役所に登記の申請をするには基本的に期限が決められています。ここでは、建物表題登記の申請がいつからできるのか、そしていつまでにやらなければならないのかについて解説します。
いつからできるか
建物表題登記は、建物が完成し、所有権を取得した時点から申請が可能です。基本的に所有権の取得とは、建物のすべての工事代金の支払いを終え、施工会社から所有権証明書を受領した時点を指します。
ちなみに建物表題登記の申請に必要な書類は次のとおりです。
登記申請書
建物表題登記を申請するための書類です。必要事項さえ記入してあれば書式は自由ですが、厳密に言うと、法務局側で申請を受領後に、印やシールを添付したりしますので、その分の空白が必要です。Webサイトでフォーマットをダウンロードするとスムーズに進められるでしょう。
建物図面・各階平面図
建物と敷地、周辺の図面と建物の各階平面図を手書き、もしくはパソコンを使ってB4用紙に記載しますが、自分で作成することも可能です。土地家屋調査士に依頼する場合は、現地での計測が必要ですが、本人申請の場合、計測は不要で建築確認書にある図面や登記情報をもとに図面を書きます。
建築確認済証(確認済証・建築確認通知書)
建物確認申請書に記載された事項が、建築基準法に適合していると認めたもので、施工会社が工事を開始するために必ず必要な書類です。
検査済証
建物の工事が完了し、完了検査に合格した際に発行される書類です。検査済証の発行をもって初めて、建てられた住宅に住めるようになります。
所有権証明書
施主(家を建てる人)が工事代金を全額支払った時点で、施工会社から受け取る書類です。建物表題登記の申請を行う場合、販売事業者・建築請負業者の印鑑証明書が必要になります。
申請者記載の住民票
建物表題登記を申請する所有者が記載された住民票です。
委任状
代理人に申請してもらう場合に必要になります。
いつまで可能か
建物表題登記は、所有権を取得してから1カ月以内に申請を済ませなければなりません。これは、不動産登記法第四十七条で規定されているため、原則として必ず1カ月以内に申請する必要があります。それを過ぎますと、10万円以下の過料に処すると不動産登記法百六十四条で定められています。
1カ月以内というと少し余裕があるように感じるかもしれません。しかし、新築後は、移転や新たな地域でのさまざまな手続きもあり、あっという間に過ぎてしまいます。
「まだ大丈夫」と思わず、申請ができるようになった時点ですぐに始めないと間に合わなくなってしまうでしょう。
住宅ローンと建物表題登記の関係
建物表題登記は、建物が完成し、施工会社に工事代金の全額を支払った段階から申請が可能になると説明しました。
なぜなら、工事代金を支払うまでは、建物は施工会社の所有物であり、支払いを終えた段階で初めて施主の所有物になるからです。建物表題登記は、建物の所有者が自分であることを証明するためのものですから、この流れはいたって当然といえます。
ただし、ここで一つ問題となるのが、ほとんどの場合、住宅を購入する際には住宅ローンを利用する点です。工事代金の全額を、現金決済できるのであれば前段の流れで何も問題はありません。しかし、住宅ローンを利用するとなると話は変わります。住宅ローンは建物表題登記が完了してからでないと契約ができないのです。
建物表題登記をするには、施工会社に工事代金の全額支払いが必要ですが、工事代金を住宅ローンで賄う場合、建物が完成した段階では施主には支払うお金がありません。つまり、住宅ローンを利用すると、施工会社に支払いができず、建物表題登記もできないまま、完成した建物だけが宙に浮いた状態になってしまうのです。
住宅ローンまでの基本的な流れ
ここで改めて、建物を建て、住宅ローンを利用するまでの基本的な流れを建物の購入と併せて解説します。
1.売買契約
最初は、施工会社やハウスメーカーとの売買契約です。施工会社にもよりますが、この時点で住宅ローンの契約が可能かどうかを、複数の金融機関と折衝して事前審査を行う場合もあります。
2.事前審査
施主の年収、自己資金額など簡単な情報を提供したうえで簡易的な審査を行います。事前審査を通過しないと売買契約ができないため、前項で挙げたように施工会社が間に入って進めるケースも少なくありません。通常、結果が出るまでの期間は3日から1週間程度です。
3.本審査
金融機関によって求められる情報は異なりますが、事前審査よりも詳しい情報を提供し、本審査を行います。住宅ローンを利用する場合、団体信用生命保険への加入がマストになるため、健康状態の確認もあり、結果が出るまでの期間は1週間から2週間程度です。
なお、事前審査を通過していても、本審査で融資はできないとされる可能性もあります。その場合は、改めて別の金融機関を探さなければなりません。
4.契約
本審査を通過すれば、住宅ローンの契約(金銭消費貸借契約)が可能です。ただし、住宅ローンとして数百万から数千万円のお金を債務者(施主)に貸すにあたり、担保となるものを求めます。住宅ローンの場合、担保となるのは住宅です。
ただ、住宅を担保とするには抵当権設定という登記が必要になり、この登記を行うには登記簿謄本が必要になります。そして、登記簿謄本は、建物表題登記と取引時に自分の所有物であることを証明する所有権保存登記を済ませていなければ存在しません。つまり、契約の段階で建物表題登記を済ませていないと住宅ローンは利用できないということになります。
ポイントとなるのは、建物表題登記の申請に必要な書類の一つである所有権証明書です。通常、工事代金の全額支払いを持って施工会社から受領しますが、施主には全額支払うお金がありません。
施工会社によっては、支払いを済ませる前に所有権証明書を発行してくれるケースもありますが、原則としては、支払いと同時に発行となります。つまり、住宅ローンを受けられるかどうかは、施主と金融機関の問題というよりも施主と施工会社との問題といえるのです。
例外としてつなぎ融資の場合(注文住宅の場合)
施主と施工会社との問題はもう一つあります。それは、工事代金を工事が完了した際に全額支払うのではなく、着工時に着手金、棟上げ後に中間金と都合3回に分けて支払うのが一般的な点です。
仮に施工会社との話し合いで、工事完了前に所有権証明書を発行してもらえたとしても、住宅ローンの手続きに時間がかかれば、着工金や中間金の支払いに間に合いません。その際に利用するのがつなぎ融資です。
つなぎ融資とは、住宅ローンが実行される前の段階で必要となる資金をつなぎとして融資するもので、着工金や中間金の支払いに利用します。住宅ローンに比べると金利は高くなりますが、住宅ローンを利用する同じ金融機関から融資を受けられるため、一括で手続きや契約ができるのがメリットです。
なお、つなぎ融資で借りた金額と利息は、住宅ローンの融資金で精算するため、住宅ローンを受け取った時点で完済となります。
建物表題登記のタイミングを逃すと過料が発生
建物表題登記は不動産登記法第四十七条で、所有権の取得から1カ月以内に申請しなければならないと義務付けられています。
そして、不動産登記法百六十四条により、十万円以下の過料に処するとなっているため、申請のタイミングを逃せば、罰則を受ける可能性もあるでしょう。
未登記のリスクと建物表題登記の義務化
建物表題登記は、建物を購入する段階で申請しなくてはならないことがわかっているため、タイミングさえ間違えなければ未登記の心配はないと思われるのではないでしょうか。しかし、建物表題登記をしなければならないのは新築物件だけとは限りません。
例えば、中古物件を購入する場合、建物を建てた際に登記をせずにそのままになっている可能性もありえます。また、新築であっても住宅ローンを利用せずに購入した後、申請のタイミングを逃して登記をしないままといったケースもあるでしょう。
しかし、登記をしないままでいると、前述した過料が発生する以外にも次のようなリスクが生まれます。
1.リフォームや建て替え時に融資を受けられなくなる
購入時は現金で購入したとしても、数年後にリフォーム、建て替えを行う際には融資を受けなければならない場合もあるでしょう。住宅に関する融資は、住宅自体を担保にして行うため、抵当権設定が必須です。
しかし、前述したとおり抵当権設定の登記は所有権保存登記に実行されるものですが、所有権保存登記は、建物表題登記が完了していなければ申請できません。つまり、未登記の建物では融資を受けられないリスクが高まるのです。
2.建物の売買ができなくなる
未登記の建物は、将来的に売却できる可能性も低くなってしまいます。売却の際、権利部がなければ買主名義での登記ができなくなってしまうからです。また、登記がされていなければ、第三者に勝手に売却されてしまっているケースもありえます。それを知らずに売却すれば、二重売買という犯罪になってしまうため、これもまた高いリスクといえるでしょう。
3.第三者に所有権を主張されても対抗できない
建物表題登記は、誰の所有する建物かを証明する登記ですが、第三者に対して不動産の権利を主張するには、建物表題登記をした上で、所有権保存登記をする必要があります。
建物表題登記をしていなければ、所有権保存登記もできないため、仮に第三者と所有権の争いになった際、第三者に対抗することができません。場合によっては、第三者に建物を取られてしまうリスクがあります。
4.相続時にトラブルが発生しやすくなる
自分で購入した場合でなくても、未登記の建物に関するリスクに巻き込まれるケースがあります。それは、相続時のトラブルです。
例えば、自身の身内が亡くなった際、亡くなった方の住んでいた建物が未登記だった場合、相続するには役所に大量の書類を提出しなくてはなりません。そのため、手間がかかりそのまま登記できずに相続できなくなる可能性があります。
また、相続税対策として売却を考えた場合も、上述したように未登記の建物は売却が困難です。そして、建物の売却を諦め、解体して土地を売ろうにも、複数の相続人がいる場合はすべての相続人に同意を得なくてはなりません。
建物も土地も売却が困難となると、そのまま放置し、空き家となってしまい管理などに手がかかる上、未登記であっても固定資産税は発生します。
さらに、令和6年(2024年)4月1日より、相続登記の申請が義務化されるため、不動産を取得した相続人は取得を知った日から3年以内に相続登記の申請が必須となります。
未登記の建物を登記するにはかなりの手間を要しますが、相続登記が義務化されたことで、建物表題登記同様、登記を怠れば過料のリスクが発生するので注意が必要です。
まとめ
建物表題登記の申請は、法律で定められた義務です。そのため、必ず守らなければなりません。守らなければ、罰則として過料に処されるのはもちろん、さまざまなリスクを抱えてしまうことになってしまうでしょう。
また、住宅ローンを利用する場合は注意が必要です。原則として施工会社が発行する所有権証明書がなければ、建物表題登記ができず、所有権保存登記も住宅ローンを実行するための抵当権設定登記もできません。そのため、工事完了を待たずに所有権証明書を発行してくれる施工会社を選定し、事前に承諾を得ておくとよいでしょう。
(※参考:検査済書があれば所有権証明は基本不要です。)
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基本的には、工事の中間検査で中間検査合格証を取得した時点でご依頼いただければ、建物が完成する日までに建物表題登記申請書の準備を完了させることが可能です。