建物を新築した際は、その建物の表題登記を行わなければなりません。しかしながら表題登記されていない建物、つまり、未登記建物は全国に数多く存在し、問題となっています。特に相続した家が未登記であった場合、さまざまな問題が生じます。未登記建物を相続した際の対応について見ていくことにしましょう。
未登記建物とは
未登記建物とは、読んで字のごとく「未だ登記されていない建物」のことで、建築時に建物の表題登記がされておらず、登記記録が存在しない建物です。
不動産登記法には、新築した建物について「建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない」(不動産登記法第47条)と定められています。建物の表題登記は法律で義務付けられているのです。
しかし、実は、日本には未登記の建物が数多く存在しています。その理由の一つとして、住宅ローンの利用率があげられます。
住宅ローンを組む場合、金融機関はローンの対象となる不動産に抵当権を設定します。ローンの返済が滞った場合に備えるためですが、この抵当権を設定するためには、まずその物件が登記されていなければなりません。そのため、住宅ローンの利用率が高い現在では、新築の家が未登記になるケースはごく少ないのです。
ただ、昔は「家を建てるのは自己資金で」というのが一般的という時代がありました。住宅ローンを組むのではなく、自身の預貯金、あるいは親戚に借りるなどして家を建てるわけです。そうした時代に建てられた家は、登記については家を新築した人に任せられることになり、未登記のままになるケースも少なくなかったのです。
未登記建物を放置しておくことによる法的なリスクとデメリット
未登記建物を放置しておくと、さまざまなリスクとデメリットがあります。
過料の対象になる
上でお話ししたように、表題登記は「建物の所有権を取得した日から一月以内」に申請しなければなりません。そして、不動産登記法第164条には「申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」とあります。
過料は刑事罰の罰金とは違いますし、これまで実際に過料となったケースはないようですが、法律にこうした規定があることは留意しておくべきでしょう。未登記不動産の放置には法的なリスクがあるのです。
対抗要件を備えていない
また、法的なリスクとして大きいのは、未登記建物は対抗要件を備えていないということです。対抗要件とは「当事者間で効力のある権利関係を第三者に対して主張するための法律的要件」です。
例えば、A氏が自分の家をB氏に売却したとします。この場合、A氏とB氏は「当事者」、「当事者間で効力のある権利関係」とは、A氏がB氏に家を売り、その家はB氏のものになったということです。
しかし、A氏が別の人、C氏にも「自分の家を買わないか」と持ちかけ、売買が成立したとします。いわゆる二重売りです。
この場合、B氏にとっての第三者はC氏になります。もしもB氏が、A氏から家を買ったにもかかわらず登記手続きを行わず、逆にC氏は登記手続きを済ませていたとしたらどうなるでしょう。
二重売りが判明し、B氏が「この家は私がA氏から買ったもので、お金も払ったし、私の家だ」とC氏に主張しても、それは法律上通用しません。登記を怠ったB氏は、C氏(第三者)に対し、自分の権利を主張するための「法律的要件」を備えていないからです。
未登記建物には法的なリスクだけではなく、運用や活用についてもデメリットがあります。
融資を受けることができない
例えば、相続した家を担保にして金融機関からお金を借りたいと思っても、未登記であれば融資を受けることができません。
金融機関が不動産を担保に資金を融資する場合は、基本的にその不動産に抵当権を設定します。つまり、その不動産を担保にとるわけです。しかし、抵当権の登記手続きをするには、まず、その不動産が登記されていなければなりません。そのため建物が未登記である場合、金融機関から融資を受けることはできないのです。
売却が難しい
不動産の売買が成立すると所有権移転登記を行います。その不動産の所有権が、売主から買主に移ったことを明確にするための登記です。
所有権移転登記を行うことで初めて、その不動産の所有権が売主から買主に移ったことが法的に明らかになります。しかし、未登記建物の場合、そもそも売主が本当にその建物の所有権を有しているか確認できません。
未登記建物を売却することは不可能とはいえませんが、所有権が明らかになっていない未登記建物を買おうとする人は稀であり、未登記建物の売却は現実的ではありません。
未登記の建物を売却するときは、まず売主がその建物の表題登記、そして所有権保存登記を行い、建物の所在や構造、所有権を明確にしなければなりません。売買は登記手続き後になります。この登記に時間がかかると思うようなタイミングで売却ができず、場合によって損をしてしまうことも考えられます。
未登記建物の相続時の表題登記を義務化
さて現在、国は土地や建物など未登記の不動産が多い現状を是正したいと考えています。そのため、2021年(令和3年)4月21日に「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、2024年(令和6年)4月1日以降は相続登記が義務化されます。
この法改正が行われた背景には、所有者不明の土地の増加があります。所有者不明の土地の増加は、公共事業の推進や民間企業の土地の有効活用について大きな支障をきたします。
(財)国土計画協会の「所有者不明土地問題研究会」の発表によれば、2016年(平成28年)の推計で、日本全国の所有者不明の土地の面積は九州より広い約410万haにのぼります。そして、対策を講じなければ2040年(令和22年)には約720万ha、北海道の約9割に拡大する可能性があるとされています。未登記の不動産の増加を防ぐことは差し迫った課題となっているのです。
これまで相続登記は義務化されておらず、「いつまでに申請しなければならない」という期間も定められていませんでした。
しかし、2024年4月1日からは、相続によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった時は、10万円以下の過料の適用対象となります。
ちなみに法律の条文(不動産登記法第76条の2)は次のようになっています。
不動産登記法第76条の2
「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」
ここでは相続登記を義務付ける物件について土地、建物を分けていません。そのため相続登記が義務付けられるのは土地だけではなく建物も含まれることになります。
先に新築の建物について「申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」という規定があるものの実際に適用されたケースはないということをお話ししましたが、今後、これまで通りであるかどうかはわからないと言えるでしょう。
未登記建物の相続時に必要な表題登記
未登記の建物を相続したときの対処を見てみましょう。まず必要になるのは、建物の表題登記です。
表題登記とは、まだ登記されていない土地や建物について新たに登記することを言います。
例えば新築の家は当然、まだ登記されていないわけですから、新築時に表題登記をします。相続し、すでに建っていた家であっても、未登記の建物であれば表題登記をすることになります。
表題登記をすると、建物の所在や種類・構造・床面積など建物の物的状況が登記簿の「表題部」に記載されます。登記簿には、「表題部」とともに「権利部」があります。権利部には、その建物を所有するのは誰かという権利に関する事項が記載されます。そして、所有権を法的に明確にするためには、「所有権保存登記」を申請する必要があります。
表題登記
表題登記は建物の所在地を管轄する法務局に申請します。主な必要書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 建物図面/各階平面図
- 所有権証明書(建築確認書及び検査済証、施工業者からの工事完了引渡証明書など)
- 申請人の住所証明書(住民票)
相続の場合は「相続に関する書類」も必要になります。
- 被相続人の誕生から逝去までの戸籍謄本
- 相続人であることを証明できる書類(A)
遺言書や法定相続人が複数いる場合で、建物の相続を一人にする場合は、相続放棄書(その他の法定相続人の署名、押印、印鑑証明書が必要)など、条件次第で必要書類が異なります。
所有権保存登記
所有権保存登記も建物の所在地を管轄する法務局に申請します。主な必要書類は次のとおりです。
- 登記申請書
- 申請人の住所証明書(住民票)
- 住宅用家屋証明書 (新築、居宅である、建築後未入居であることなど条件があります。)
- 相続に関する書類(表題登記で添付した(A))
- 家屋の評価額がわかる書類
固定資産税通知書が届く時に同封されている納税評価額証明書など。
表題登記で評価額が認定されることで、所有権保存登記をする時に書類が有効となり、登録免許税が評価額に対しての基準になります。
ここで注意しておきたいのは、表題登記には登録免許税はかかりませんが、所有権保存登記には登録免許税が発生することです。
建物の所有権保存登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の0.4%ですが、住宅用家屋証明書を提出すれば、固定資産税評価額の0.15%に軽減されます。ただ、この証明書の取得については、自己の居住の用に供する家屋であること、当該家屋の床面積(登記事項証明書上)が50平方メートル以上であること、昭和57年1月1日以降など取得要件が定められています。
なお表題登記と所有権保存登記を同時に申請することはできません。表題登記で表題部が作成されて初めて建物の存在が法律上明らかになり、法律上明らかになった建物について所有権保存登記が申請できるからです。
ところで未登記の建物であっても固定資産税が課税されます。未登記なのになぜ課税できるかいえば、地方公共団体が独自に調査し、所有者と判断した人に納税通知を出すからです。未登記の建物を相続した場合、地方公共団体の固定資産税を扱う部署に(名称は「税務課」、「資産税課」など地方公共団体で異なります)、所有者が変更したことを申請する必要があります。(この申請書の名称も、未登記家屋納税義務者変更届、未登記家屋所有者(納税義務者)変更申請書など地方公共団体で異なります)
ただ、この場合は所有権の登記がなされていないままになりますので、第三者への対抗要件を備えていることにはなりません。
また、相続には一般的に預貯金や資産などプラスの財産を承継するというイメージがありますが、相続は「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」ということです。つまり、相続するのであれば借金などマイナスの財産も承継しなければなりません。
しかし、被相続人(故人)に莫大な借金があり、返済の見込みが立たないという場合、相続放棄という方法があります。この場合、マイナスの財産だけではなく、プラスの財産を含め、すべての相続を放棄することになります。
では、被相続人(故人)が遺した財産に未登記建物があり、その相続を「放棄したい」という場合、どうすればいいでしょう。
未登記建物が相続財産に含まれている場合も、相続放棄は可能です。通常の相続放棄と同じく、家庭裁判所に相続放棄を申し立てることで、相続放棄ができます。
未登記建物の解体時の対応
Aさんは親の家と土地を相続しました。ただ、すでに自分と家族の住まいは別にあり、今後、相続した家に住む予定はありません。
家と土地の売却を考えましたが、家はかなり前に建てられたもので傷みもひどく、中古住宅として売却することは難しそうです。知人に相談したところ、「家を解体して更地にし、土地だけにしたほうが早く売れる」と助言され、家を解体することにしました。しかし、登記簿を調べたところ、相続した家は未登記。こうした場合どうすればいいでしょう。
登記されている建物(これを既登記建物と言います)を解体した際は、建物の所在地を管轄する法務局に「建物滅失登記」を申請する必要があります。建物滅失登記は、「この建物はもはや存在しません」ということを登記するもので、建物滅失登記をしなければ、現実には建物が存在していないにもかかわらず、登記簿上には建物が残り続けることになります。
そのため土地を売却しようと思っても、その土地は「更地ではない」と判断され、土地の売却は困難になりますし、実際には建物がないにもかかわらず固定資産税がかかり続けることになります。
未登記建物の場合は、そもそも登記自体がないわけですから、登記簿上、建物は存在しないことになっています。そのため家を解体しても建物滅失登記をする必要はありません。
ただ、未登記建物を解体したら「家屋滅失届」を、その建物を管轄する地方公共団体の税務課(名称は地方公共団体で異なりますが、固定資産税を扱う部署)に提出します。家屋滅失届を提出しないと、家が取り壊されたことが確認できず、引き続き固定資産税を課せられることになります。
家屋滅失届の様式や名称は各地方公共団体によって異なりますが、記載する項目はほぼ一定しています。
・届出者の氏名、住所、電話番号
・所有者の氏名、住所、電話番号
・家屋の所在地
・建物の種類(住宅、店舗など)、構造(木造、鉄骨造など)、屋根(瓦屋根など)、階数(1階、2階…)、
床面積(各階床面積、あるいは延床面積)
・滅失年月日(解体日)
・滅失の理由(売却のため解体、建て替えのため、など)
建物滅失登記を法務局に申請するのに対し、家屋滅失届を地方公共団体の役所に提出するのは、固定資産税は地方公共団体が管理しているからです。
なお、建物が登記されているか未登記かは、固定資産税の納税通知書に同封されている課税明細書を見るとわかります。
課税明細書には建物の所在地や構造などが記載されます(課税証明書の体裁は地方公共団体により異なります)が、その中に家屋番号という項目があります。その項目が空欄であれば未登記建物である可能性が高いですし、「未登記」と記載されていれば間違いなく未登記建物です。
まとめ
未登記建物とは、新築時にしておくべき表題登記がなされておらず、登記記録が存在しない建物です。
不動産登記法には新築した建物について、「その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない」と定められており、「申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」という規定もあります。
そして、そもそも建物が未登記であることは、第三者に対する法的な対抗要件を備えていないため、大きな問題をはらんでいます。
相続後の運用や活用においても未登記建物にはさまざまな問題が生じます。未登記では、所有者が法的に明確になっていないため、相続した家を売却したいと思っても売却が難しく、また、建物を担保に金融機関からお金を借りることもできません。
未登記建物を相続した際は、建物の表題登記、そして所有権を明確にする所有権保存登記を行う必要があります。また、未登記建物を相続し、その家を解体した場合は、家屋滅失届を地方公共団体税務課に提出します。この手続きをしないと固定資産税を払い続けることになります。
現在、国は未登記の不動産が多い現状を是正すべく、不動産登記を促進しています。そのための法改正も進んでいます。
今のところ、所有者不明の土地、また、その相続時の問題解消に焦点が絞られている感がありますが、本来、建物の表題登記は法律で義務付けられたものであり、きちんと行わなければなりません。
一般的に建物の表題登記は土地家屋調査士に依頼しなければならないと思われていますが、自分ですることもできます。
専門家に依頼せず自分で表題登記をする人も少なくありません。そして、そのための支援サービスもあります。インターネットで「住Myの建物登記自己申請」と検索してみて下さい。適切なアドバイスを受けながら、無理なく表題登記ができるサービスです。