通常、建物を新築した際には、法務局へ1カ月以内に登記をする義務があります。しかし、実際には登記されていない建物は多く、相続をした際に未登記だったと発覚するケースも珍しくありません。法律で定められているのにも関わらず、未登記建物が存在するのは何故なのでしょう。今回は、未登記建物の概要、登記しないことで生じるメリット・デメリット、リスクについてお伝えします。
未登記建物とは
建物を新築した場合、不動産登記法第47条により、所有権を取得した者は、その所有権を取得した日から1カ月以内に表題登記を申請しなければならないと定められています。未登記建物とは、この表題登記がされていない建物を指すものです。
未登記建物は大きく次の3つに分けられます。
未登記建物
本来、登記をしなければならない建物であるにも関わらず登記がされていない建物です。登記がされていないため、登記事項証明書や全部事項証明書のような登記記録がありません。
一部未登記建物(表題部変更未登記)
建物の登記は、新築した時点だけではなく、何かしらの事情で用途や構造、面積が変わった際には、改めて登記内容の表題部分を変更しなければなりません。
一部未登記建物とは、建物を新築した際に登記は済ませたものの、その後、改築や増築、倉庫や車庫など付属する建物の建築についての登記が行われていない状態の建物です。
一部未登記建物(権利部変更未登記)
建物は所有者の氏名や住所の変更があった際には権利部(甲区部)、建物の債権に変更があった際には権利部(乙区部)の変更が必要です。この際に登記内容の変更をしていない状態の建物も一部未登記建物と呼びます。
未登記建物と一部未登記建物(表題部変更未登記)に関しては、法務局への登記が法律で義務とされています。ただし、一部未登記建物(権利部変更未登記)に関しては、義務とはされていません。
未登記建物はなぜ存在するのか
本来、法律で定められているのであれば、未登記の建物は存在しないはずと思われるかもしれません。しかし実際には多くの未登記建物があるのが現状です。
未登記の建物が存在する理由はいくつか考えられますが、その一つとして、住宅ローンを利用せずに購入したケースが挙げられます。
建物を新築して住宅ローンを利用するには、抵当権設定登記という登記をしなければなりません。そしてこの登記をするには、建物の登記が必須であり、未登記建物では住宅ローンを申請しても却下されてしまいます。
また、建物を建てれば自動的に登記されるわけではなく、必ず建物の所有者が登記を行わなくてはなりません。法務局や登記所から登記の申請を催促されることもないため、住宅ローンを利用せずに購入し、そのまま登記をしないことで未登記建物が生まれてしまうのです。
近年、住宅ローンの利用が当たり前となっていますが、以前は住宅ローンを使わずに建物を購入するケースも少なくありませんでした。そのため、未登記建物の多くは古い建物であることが多く、遺産相続で建物を相続した際に未登記建物だったと発覚するケースが増えています。
未登記建物であることのメリット
未登記建物であることのメリットは、登記をする際にかかる手間とコストがなくなることです。
建物の登記は、土地家屋調査士に依頼した場合は、階層や士業者によりますが10~15万円。所有者自身で行った場合でも1万円程度のコストがかかります。また、自身で行う場合は、必要な書類や図面の作成に手間がかかります。登記をしなければ、これらの手間やコストはゼロです。
未登記建物であることのデメリットとリスク
登記をしなければ、手間もコストもかからないのは大きなメリットと感じるかもしれません。しかし、次に挙げるデメリットを見ると、登記にかかる手間やコストがなくなるぐらいのメリットでは、割に合わないのは明白です。それぞれの詳細について解説します。
過料の対象に
建物の表題登記は法律で定められた義務です。これを放置してしまえば不動産登記法第164条により、十万円以下の過料に処するとされています。仮に過料に処されてしまえば、自身で登記するコストよりも、数倍の過料を支払わなければなりません。過料の対象となってしまうのはリスクといえるでしょう。
融資を受けにくい
前述したように、建物を住宅ローンで購入する場合は登記が必須です。登記をしなければ融資も受けられません。
また、融資を受けられないのは新築時だけではなく、増改築やリフォームをする場合でも同様です。融資額にもよりますが、融資を受ける際は建物を担保に入れるのが基本となるため、未登記建物では融資を受けにくくなることはデメリットであり、リスクであるといえます。
住宅ローンを利用するには、建物の表題登記をしたうえで、所有権保存登記も行うことが必要です。
売却が困難になる
住宅ローンを利用するには、登記が必須だと説明してきました。これは売却時でも同様です。未登記建物を売却する場合、買い手は住宅ローンを利用することが難しく、一括払いで購入できる買い手を探す必要が生じます。
新築したばかりであれば、売却のリスクはあまり考えないかもしれません。しかし、相続で建物を受け継ぎ、その建物に住まず売却をする場合に、売却できる相手が限られてしまうのは大きなリスクです。
さらに、売却先が見つかるまで住んでいない建物の固定資産税を払い続けなければならないのは、大きなデメリットといえるでしょう。
所有権を証明して対抗ができない
新築もしくは相続した建物が未登記建物だと、その建物を自身が所有するものとしての証明が困難です。
例えば、建物を購入もしくは相続したものとしても、土地は第三者が所有している場合、土地の所有者に建物ごと立ち退きを要求されても、所有権を証明して対抗できません。そのため、建物を残しておくことはできず、自身の負担で取り壊すしかなくなるのは、デメリットであり、リスクです。
自身が建物の所有者であることを証明するためには、住宅ローン利用時と同様に、建物の表題登記をしたうえで、所有権保存登記も行う必要があります。
未登記建物の相続について
古い建物は、現在よりも住宅ローンを使わずに購入されたケースが多く、未登記建物の可能性も高くなります。そのため、相続した建物が未登記建物であるケースも珍しくありません。
では、未登記建物を相続した場合、そのままでよいのか、登記の必要があるのか、そもそも未登記建物を相続するにはどのような手続きが必要なのかを解説します。
すでに登記が済んでいる建物であれば、相続をした者が相続登記をするだけで基本的な手続きは終了です。なお、相続登記は2022年現在では義務化されておらず、登記をする場合でも「いつまで」といった期限もありません。ただし、法改正により2024年4月1日からは所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が義務となります。
未登記建物の場合も相続登記が必要ですが、その前に建物の表題登記をしなければなりません。また、所有権保存登記に関しては、現時点では義務化はされていませんが、所有権保存登記をしなければ所有者であることを法的に証明はできません。後々のトラブルを避けるためにも所有権保存登記も行っておきましょう。
相続した未登記建物の登記をする手順は、通常の登記と同じです。管轄法務局や手元にある書類によって提出書類は異なりますが、一般的に次のような書類が必要になります。
・登記申請書
・建物図面・各階平面図(B4)
・建築確認済証(建築確認通知書)
・検査済証
・引渡証明書
・建物の評価証明書
・固定資産税の納税証明書
・電気・水道・ガス料金の支払証明書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍
・相続人全員の戸籍
・遺産分割協議書(印鑑証明書つき)など
(※すべてではありません。詳細は申請を行う法務局や登記所に必ず確認をしてください)。
なお、建築確認済証や検査済証、引渡証明書などは、新築であればすぐに用意できますが、相続した古い建物の場合、すでに消失しているケースも考えられます。特に建築確認済証は再交付されないため、事前に法務局へ相談してください。
次に、未登記建物を相続する際に必要となる、遺産分割協議書について解説します。遺産分割協議書とは、被相続人の遺産について、誰が何をどれだけ相続するかを協議し、合意した内容をまとめた書類です。
遺産分割協議書を作成するには、被相続人の財産をまとめた財産目録を作成します。財産目録に建物がある場合、所在・家屋番号・種類・構造・床面積なども正確に記載しなければなりません。しかし、未登記建物の場合、これらを法務局で確認できないため、納税通知書や名寄帳を基に調査し、記載します。
未登記建物のアパート等の仲介
相続した未登記建物が、通常の住宅ではなく、アパートやマンションだった場合、どのような問題が考えられるでしょう。基本的に、部屋を借りる側にとっては、未登記であるか登記されているかはあまり大きな問題はありません。
ただし、相続人は注意が必要です。特に土地が被相続人のものではなかった場合、前述したように何らかの事情で立ち退きを要求されても対抗手段はありません。
自身が住まなかったとしても、未登記建物を相続した際にはできるだけ早く建物の登記を行い、併せて所有権保存登記も行うことをおすすめします。
まとめ
未登記建物を放置するのは、基本的にデメリットばかりでメリットはないと考えたほうがよいでしょう。新築を購入される場合、現在は住宅ローンを利用するケースがほとんどのため、基本的には登記をされると思います。しかし、古い建物を相続した場合は、未登記建物である可能性が高いため、必ず確認したうえで、未登記であれば早めに登記をしましょう。また、将来相続すべき建物がある場合は、登記されているかどうか確認し、未登記であるならば必要書類があるかどうか確認し、登記されることをお勧めいたします。
古い建物の登記を自身で行うのは非常に手間がかかりますが、その際は、ぜひ、建物登記支援センターの「住My(すまい)の建物登記自己申請」の活用をおすすめします。建物の登記にかかる面倒な手間を軽減し、スムーズな登記を支援します。未登記建物を相続してお困りの際は、ぜひお気軽にお声がけください。