「相続して初めて家が未登記であることを知った」というケースも少なくないようですが、未登記の建物はさまざまな問題を抱えています。そこで未登記建物をめぐる現状や未登記の家を相続した際の対応、また、登記申請にかかる費用などについて見ていくことにしましょう。相続登記については令和6年4月から義務化されます。
未登記建物とは
未登記建物とは、一口に言えば「まだ登記されていない建物」のことです。こういうと「ああ、読んで字のごとしですね」となりそうですが、実はここには重要な問題がひそんでいます。
そもそも不動産登記とはなんでしょう。不動産登記とは、その不動産(土地や建物)が、どこにあり、どのようなものかという物理的な状況、そして、その所有者は誰かという権利関係を公的な帳簿(登記簿)に記録することです。
登記簿に記録された情報は一般に公開され、誰でも見ることができるようになっています。この不動産登記という制度があることで、不動産の所有権が保護され、また、不動産の取引が円滑に行えるようになります。
不動産の登記はたいへん重要であり、おろそかにはできないものなのです。
そのため、建物については、その登記が不動産登記法によって次のように義務付けられています。
新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない
不動産登記法第47条
そして、同法第164条には「申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」と罰則も規定されています。
しかしながら、現在、日本には未登記の建物や土地が多く、大きな問題になっています。中でも未登記の建物は、古い家に多いことが指摘されています。昔は家を建てる際、現在のように住宅ローンを組むのではなく、自己資金で建てるのが一般的でした。そのため新築後、家の登記については所有者に任せられており、登記しないままになるケースも少なくなかったのです。
現在は、家を建てる際にはローンを組むのが一般的です。住宅ローンを組む際、金融機関は対象となる家に抵当権を設定します。ローンの返済が滞った場合に備えて家を担保にするわけです。しかし、抵当権を設定するためには、その家が登記されていなければなりません。このため住宅ローンが一般的になってからは未登記の家は少ないわけです。
家が未登記かどうかを調べる方法
家が未登記であることを知るのは相続時が多いようです。また、リフォームを考え、そのためのローンを金融機関に相談した際に家の登記について確認され、未登記であることが判明するケースも少なくありません。
家が未登記であることに気づかない原因の一つに、固定資産税の納付を挙げることができます。未登記の建物であっても固定資産税の納税通知書が送付されます。これは地方公共団体の役所が家の新築などをきちんと調べているからです。そこで「固定資産税の通知書が届き、固定資産税を支払っているのだから、当然、家は登記されている」と思い込んでしまうわけです。
家が登記されているか未登記かを調べる方法を見てみましょう。その方法は二つあります。
一つは、固定資産税の課税明細書で「家屋番号」を確認する方法です。固定資産税の課税明細書には「家屋番号」という欄があります。この欄が空欄になっている場合、建物が未登記である可能性が高いと言えます。登記されていれば家屋番号が記載されているからです。
二つめの方法は、家の所在地を管轄する法務局で「全部事項証明書」を請求することです。全部事項証明書には、不動産の登記記録の内容がすべて記載されています。登記されている建物「既登記建物(きとうきたてもの)」であればこの全部事項証明書を取得でき、未登記である建物「未登記建物(みとうきたてもの)」であれば取得することができません。
なお、方法の一つめの固定資産税の課税明細書のチェックについては、地方公共団体のミスによって家屋番号欄が空欄になっていることも考えられなくはありませんから、正確を期すためには二つめの方法、法務局で全部事項証明書で確認することをおすすめします。全部事項証明書は、既登記建物であれば郵送やインターネットを使って有償で取得することもできます。
令和6年4月施行の未登記建物の申請義務
登記簿上で、所有者の所在が確認できない土地を所有者不明土地といいます。2016年(平成28年)に行われた「所有者不明土地問題研究会」の調査では、全国の所有者不明土地の面積は九州を超える約410万ha、そして、この問題を放置すれば2040年には全国で約720万ha、北海道の面積に迫る水準にまで増加すると推計されています。
また、国土交通省のパンフレット(2022年)によれば、所有者不明土地となる原因の約63%が相続時の所有権移転の未了、そして約33%が、所有者が転居したときの住所変更の未了となっています。
所有者不明土地は、例えば、土砂崩れなどの防災対策のため早急に工事が必要であっても、所有者がわからないため工事を進めることができないといった問題が生じますし、市街地開発などのための用地買い取り交渉ができないなど、土地の有効活用についても大きな妨げになります。
こうした状態を是正するため2021年(令和3年)に「民法・不動産登記法改正法」が成立しました。その中の一つである「不動産の相続登記の義務化」は2024年(令和6年)4月1日以降より適用されます。
この法律では、相続などにより不動産を取得した相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが義務付けられます。また、遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容をふまえた相続登記を申請しなければなりません。いずれも、正当な理由がなく申請をしなかった場合には、10万円以下の過料の罰則の対象となります。
ちなみに条文は次のようになっています。
「所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」
未登記建物放置のデメリット
建物を未登記のままにしておくことには、さまざまなデメリットがあります。主なデメリットを見ておきましょう。
融資を得られない
家を担保にして金融機関に融資を相談したとしても、未登記であれば融資を得ることはできません。なぜなら「家を担保にして」といっても、担保とするためにはその家の所有権が明確になっていなければならないからです。所有権が明確になっていなければ金融機関としても、融資の条件となる抵当権が設定できず、未登記の建物は融資の対象外とせざるを得ないのです。
売却できない
不動産の売買が成立すると、その不動産の所有権が売主から買主に移ったことを証明する所有権移転登記を行います。
所有権移転登記を申請することで初めて、その不動産の所有権が売主から買主に移ったことが公的に明示されます。しかし、未登記建物は所有権が誰にあるのかを確認することができません。つまり、その物件を買ったとしても買主に所有権が移ったことを明示するそもそもの条件を欠いているわけです。
こうした物件に、大金を払って買おうとする人が現れるのは現実的な話ではありません。
所有権を主張できない
不動産は、登記することでその所有権が明確になります。家であれば「この家は自分のものだ」とはっきり言えるということです。登記は自分の権利を守るためにぜひ行わなければならないものです。登記していなければ所有権を他人に主張することはできません。二重売買された場合でも、登記していなければ所有権の主張ができず、泣き寝入りすることになってしまいます。
過料の対象になる
はじめにお話ししたように、建物の登記は法律で義務付けられています。そして、「申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」という罰則もあります。これまで実際に過料となったケースはないとされていますが、未登記の不動産が問題になっている現在、法律にこうした規定があることは留意しておくべきでしょう。
未登記建物を相続したときの申請方法
未登記の建物を相続したときの申請方法を見ていきましょう。
相続登記とは、より正確に言えば「相続による所有権移転登記」です。つまり、土地や建物の所有者が亡くなった時に、その土地や建物の名義を亡くなった人(被相続人)から相続した人(相続人)へ変更する手続きです。ただ、未登記建物の場合は、名義を変更すべき登記それ自体が存在していないわけですから、まず「表題登記」を申請し、その後、「所有権保存登記」を行う必要があります。
①表題登記
表題登記とは、建物の所在・地番・種類・構造・床面積など、建物の物理的な状況を登記簿に登録することです。
その建物が、どこにあって(所在・地番)、その建物の種類(居宅、店舗、共同住宅など)は何か、そして、建物の構造(木造、鉄筋コンクリート造など)はどのようなものか、また、建物が2階建てであれば1階の床面積、2階の床面積など、建物の物理的な状況を登録します。
表題登記を申請する際には、登記申請書、建物図面・各階平面図、所有権証明書(工事完了引渡証明書、譲渡証明書など)、住民票などが必要になります。
相続の場合は、ここにあげた書類の他に「相続に関する書類」も必要になります。被相続人の誕生から逝去までの戸籍謄本、また、相続人が複数人いる場合は、家の所有権を取得する者が誰であるかを証明する書類(遺産分割協議書など)が必要になります。
また、相続した建物が古い場合、例えば所有権を証明する工事完了引渡証明書が紛失しているといったケースも考えられます。この場合、固定資産税納付証明書、火災保険証書などの書類も必要になります。
②所有権保存登記
表題登記をした建物の所有権を明らかにするための登記です。
所有権保存登記に必要な書類は、登記申請書、申請人の住所証明書(住民票)です。相続の場合この他に、被相続人の誕生から逝去までの戸籍謄本、また、相続人が複数人いる場合は、家の所有権を取得する者が誰であるかを証明する書類(遺産分割協議書など)が必要になります。
表題登記と保存登記の順番と費用について
二つの登記手続きは、まず、表題登記を行って建物を特定できるようにし、その上で所有権保存登記を申請することになります。表題登記と所有権保存登記を同時に行ったり、表題登記より先に所有権保存登記を行うことはできません。建物が特定できない状態で所有権の保存登記を行うといっても、いったい何に対する所有権を保存しようとするか不明だからです。
登記申請はその不動産の所在地を管轄する法務局で行います。そして、建物の表題登記は、登記簿の「表題部」に、所有権保存登記は「権利部」に記載されます。なお、表題登記には税金はかかりませんが、所有権保存登記には登録免許税がかかります。
建物の表題登記については、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。土地家屋調査士は国家資格の一つで、依頼を受けて代理で表題登記を行うことができます。ただ、実は建物の表題登記は自分で行うこともでき、家の新築時に自分で表題登記をする方も増えています。一方、建物の所有権を扱う所有権保存登記については、司法書士に依頼するのが一般的ですが、こちらも自分で行うことができます。
土地家屋調査士や司法書士など専門家に登記申請を依頼する際の費用については、一律に数字をあげることはできません。不動産は物件ごとに建物階層や形状などが違い、そのため費用もケースバイケースになるからです。
ただ、一応の目安としては、建物の表題登記について土地家屋調査士に依頼した場合、11万円~15万円程度を見込んでおくほうがいいでしょう。特に古い家を相続した場合、通常の表題登記と違って、申請のための調査に多くの時間や労力が必要になったり、平面図などの図面がないなどした場合は専門家へ図面作成を依頼する必要があり、別途費用がかかることをも見越す必要があります。
所有権保存登記について司法書士に依頼した場合も、一定の金額を提示することはできません。インターネット上で各司法書士、あるいは、司法書士事務所が目安となる金額を示していますが、一応の目安として2~4万円程度を見ておく必要があるでしょう。
相続登記については、所有権を取得したことを知った日から3年以内、また、遺産分割協議が行われた場合は、遺産分割が成立した日から3年以内と期間が定められています。
先にもお話ししたように不動産の登記は大切です。相続という事態が生じる前に、建物が未登記であることが判明した場合は、なるべく早く登記することをおすすめします。
未登記建物の登記における登録免許税の免税措置
さて、不動産の登記には登録免許税がかかります。不動産の所有者が亡くなったことによる相続の際も、通常の不動産登記と同じく登録免許税を納めなくてはなりません。登録免許税の計算式は、次のようになります。
固定資産税評価額は、固定資産税課税明細書を見ればわかりますし、お住まいの地域の役所で固定資産評価証明書を取得して確認することもできます。
例えば相続した土地の固定資産評価額が「1234万5678円」だったとして、その計算方法を見てみましょう。
・まず、1234万5678円のうち1000円未満を切り捨て、1234万5000円とします。
・次に、上の計算式に合わせて計算。1234万5000円×0.4%=4万9380円。
・そして、100円未満の額を切り捨てます。つまり、この場合の登録免許税は4万9300円となります。
先に2024年(令和6年)4月1日以降、相続登記が義務化されることをお話ししました。国は相続登記を促すため、相続登記の登録免許税の免税措置を有期限で二つ設けています。
(1)相続により土地を取得した人が、相続登記をしないで死亡した場合の登録免許税の免税措置
例えば、夫Aさんが亡くなり、妻B子さんが夫の土地を相続したとします。その際、妻B子さんは相続登記をしていませんでした。数年後、妻B子さんが亡くなり、今度は息子のCさんが相続することになったとします。
原則としては、「①夫Aさん→妻B子さん」の時、そして「②妻B子さん→息子Cさん」の時に相続登記をして登録免許税を納めるわけですが、例えのケースであれば、「①夫Aさん→妻B子さん」の1次相続についての相続登記の登録免許税は非課税となります。
(2)不動産の価額が100万円以下の土地に係る登録免許税の免税措置
相続した土地の価格が100万円以下であれば、相続登記及び相続人が受ける所有権の保存登記の登録免許税は非課税となります。
例えば、不動産の価額が300万円で自分の持分が3分の1であれば、自分の持分は100万円ですので、持分の相続に係る所有権移転の登記または所有権を保存するための登記は非課税になります。
また、改正前は免税措置の対象となる土地が限られていましたが、適用対象となる土地の要件が撤廃され、全国の土地が対象となります。
なお、相続登記の免税措置の対象は土地についてであり、建物は対象外になっています。
まとめ
未登記の土地や建物の増加は大きな問題になっています。その是正に向けて2024年(令和6年)4月1日以降、相続登記が義務化されることになりました。
建物については、すでに表題登記が義務付けられています。建物を未登記のまま放置することにはさまざまなデメリットがあり、建物が未登記であることが判明したなら、すみやかに登記することが望まれます。
建物が登記されているか未登記かを調べる方法についてお話ししましたが、未登記である場合、建物の表題登記も保存登記も専門家に依頼せず、自分で行うこともできます。
そのための支援サービスもあります。インターネットで建物登記支援センターの「住Myの建物登記自己申請」と検索してみて下さい。自分で作成するときに悩む必要書類や図面の建築に関わる部分を作成してもらえるので、必要事項記入と押印だけで登記申請書が完成。誰でもスムーズに登記申請を行うことができます。